もう時間がないのだから、形振り構っていられないじゃないか!

 模索するのは慣れていた。いつもこそこそ影から内情を察し、臆病な自分をひた隠して強気に声を揺るがしていく。
 自尊心など最初からない、あるのはただすぐに身を消せるだけの逃げ道だけ。
 怖くて声を荒げることさえ出来ない弱々しい人間、泣声にうるさいと殴られるのを恐れる愚かな子ども。傍から見ていてひどく滑稽に見えるだろうその行動だって、己を護るたった一つの術なんだ。

 青年はひどく焦れていた。艶やかな金色に染め上げたつややかな髪を一房、整った人差し指に絡ませてぶつぶつと呪文のように言を並べ立てていく。
 見つからない見つからない、傷つけず傷つけられず、確実性のある打開策。彼女を護るための壁をご丁寧に彼女自身がことごとく潰して物事を複雑に捻じ曲げている。
 誰かあのお転婆を止めてくれればと嘆いて見せてもそれを本気と受け取らない、それでもきちんと返事を返す律儀な彼女はやはり間違いなくとびきりの素敵な人なのだ。そう思う心が自分に残っているとは思えないのだけれども。

心が消えていく、最初から抜き取られた体の一部を、もう一度引きちぎられることなどあるわけがないのに!





[2012/08/25 - 再録]