「貴方の生きていた世界と、フェアさんが生きている世界は違うんです。
 その意味が分からないほど、貴方の過ごしてきた年月は短かったのでしょうか。
 反論なんてしないでくださいね。その行為が如何に無意味か、貴方なら分かるでしょう?」

 本当にすべきことを知っている貴方なら、分かりきっているでしょう。
 言いたいと思った言葉はそれだけだった。それ以上言える資格はなく、それ以下の言葉を降り注ぐ立場ではないと、アヤは判断したから。
 この冒険者に対する憎しみなんかひとかけらも持ってはいないが、ただ自由騎士見習いとして旅立った少年を助けた優しき少女に変わって、アヤにしか言えない事実を提示すべきだと思った。

「アヤ、いいのか」

 翻したロングスカートとは正反対の方向に歩み始めたアヤの横に並ぶソルが、少し心配げに声をかける。言外に同郷の者と今は届かない故郷の話はしなくていいのかといわれている事をよく分かっていたので、アヤは自嘲気味に肩をすくめてみせた。

「本当はちょっともったいないって思っていますけど、これでいいんだと思います。フェアさんとは今日会ったばかりですけれど、とても寂しそうでしたから」
「――無理するなよ」

 頭上に手が乗せられて、アヤは視線を上に向けた。手と腕を辿ってソルの微笑んだ顔を見て、アヤもつられてはにかむ。
 数年の時を経てもさりげない優しさを忘れない彼がいるだけで、故郷への哀愁が吹き飛ぶような気がした。




(誓約者が来てくれたのなら、あの親をとっつかまえて言って欲しかった)





[2012/08/25 - 再録]