48day,Luna,Lorelei Decan 
ND2020 




 やっと日記を書けるようになった。何年ぶりだかわかんないけどとりあえず俺は戻ってこられたらしい。俺の力だジェイドのおかげだティアの譜歌のおかげだと皆はばらばらに言うけど、やっぱりこれは奇跡だと思う。どこか気前のいい音素たちが俺とアッシュに生きるための路を作ってくれたんだ。
 色々と記しておきたいことはあるけれどそれを綴る言葉が分からないから心にとどめて必死に守っていこうと思う。その方がなんかかっこいいし。でも言葉数が少ないって辛いな。よく今まで続けられたものだ。これも何かのおかげなのかな。
 だからこれが日記の最後。新しい光の路の幕開けにして思い出したものへの夢を。




 唯一つ。ここに存在を残しておきたい奴がいる。ここじゃなきゃ意味がないからな。  俺に尊い猶予を与えてくれた一つの命に栄光を。  なあ、……――









「……?」

 少年はどうして自分の名前がずっと昔の日記に書かれているのかと首を傾げた。それは見る限り一番最後のページで最後の言葉で、ここまで一度もその名が語られたことはなく突然びっくり箱の中身のように勢いよく飛び出たもの。ただこのページは前頁からおよそ二廻りも季節が巡っているもので、なら次の日記の最初にもってくればいいのにと少年でさえ思うような位時のひずみが出来ていた。それを逆手に取ればその間に何かがあったのかもしれないとだけはなんとなく分かる。それが何なのか少年には到底考え付かず途中で諦めたが。

「――なんで」

 僕の名前がここに存在しているのだろう。
そう思考を移そうとしたとき綺麗な女の人の涼やかな声が自分の名前を呼んだのを少年は小耳に挟み、にこにこ顔で日記を閉じることも忘れ勝手に入った部屋から遠慮なくばたばた音を立てて出た。  そうだ、今日は大切な日。今日は、僕達の。




 開け放たれた扉と窓から風が行き交う。それに踊らされてカーテンが爽やかな光と共にふわりと波打ち呼応するようにぱらりとページが捲れ上がる。次々に白紙の時間が続きもうそろそろ飽きてきたなあとどうでも良くなってくるだろうところまで行き着いたとき、少しだけ黒が混ざっているページに出会った。そこには至極読みづらい字面で短く真実の最後のページとしての言葉が、二行。




 ありがとう、今まで信じてくれていて。
 それだけで俺は、俺達は幸せでした。





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[2012/08/25 - 再録]