緩やかに風が収まり、コーラルはゆっくりと誰に言われたでもなく語りだした。先代が申し出を断った理由。教授や将軍達が眼光をこれでもかと開き、フェアは少し顔をゆがめる中、ギアンだけが無表情だった。

「でもそれなら問題ないわ。わたしが補佐をするから。行けるよ、逢いにいける」

 コーラルはギアンが不意に取り出したお守りを見て、魔力が込められていることに首をかしげる。少し貸してもらってああと頷きすぐに返した。その仕草にギアンは無表情だったが、何の意味があるのかと模索しているようにも思えた。

「エニシア、ちょっと」

 部屋の側面に佇むエニシアに手招きする。母と慕う少女が「どうしたの」と声をかけたので、コーラルは「部屋、案内してもらう。一人じゃ迷うかもしれない、だから」と適当に言い訳をしてさっさとその場を辞した。あのさみしそうな瞳の母をずっと見ているのは辛かった。
 淡々と歩き、もうそろそろいいかなとコーラルが一人頷いたとき、エニシアが「あの」と声をよこした。何も知らないで、もしかしたら死んでいたかもしれない少女はそれでも強く立ち続けている。母とは違った種類の強さだとコーラルは感じた。それが好ましい強さかどうかは別問題であっが。

「彼の願い、叶わない。でもそれ、多分幸せ、かと」

 あくまで淡々と言葉を連ねる。顔を見て離すのは怖かったのでそのまま歩を進めながら。

「どういうこと?」
「ギアンの目的、復讐ってお母さんから聞いた。でも相手、いない。それにギアン、誤解してる」
「、どうしてとめてくれないの? 分かっているのに、本当のことを言ってくれないの」

 まるで責任転嫁のような、物言いにコーラルは若干ひるみつつも負けじと声を張り上げる。母のように言いたいことははっきりという。それがコーラルの目標だった。

「貴方、あの人の幸せを願ってる。僕、お母さんの幸せの手伝い、したいと思っている。
 お母さん、大好きな人たちの幸せ、望んでいたから。
 敵でも憎めず、いいところ、見つけて好きになっていくお母さん、とても優しい。
 お母さん、これで幸せになれる、なら、全力で手伝いたい。
 それ、いけないこと? エニシア」

 それとも、たとえ茨道を歩むとしても切って通ろうとする人を、止める事が正しいとでも言うの。望んでいたのは貴方だというのに。
 固まったエニシアを残して、コーラルは変わらず淡々と足を運んだ。

「お母さんの友達というのなら、お母さんの幸せの手伝いをするのが、普通じゃないの」





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[2012/08/25 - 再録]