見下ろす町はフェアにとって絶景だった。
 大好きな町が下いっぱいに広がっていて、こんなにちっぽけだったのだと思い知らされる。それでも今は、手を伸ばしても届かない。ついこの間までは、この隠れ里に手が届かなかったというのに、少し皮肉だった。
 コーラルはちゃんと部屋にたどり着いたかな、と先ほどエニシアと一緒に出て行った子どもを心配する。多分エニシアに何か言おうとしていたのだろうけれど、本当に部屋へ帰れないかもしれないと危惧していたのだと思う。

「明日出発だよ、フェア。君は大丈夫かい」

 余裕ぶった声に、え、と小さな声を零す。下を指差し、「町に帰りたいんじゃないかなと思ってね」とギアンは明確に内容を示した。そんなふうに見えたのかしら、とフェアは首を傾げつつ苦笑する。

「何をいまさら。そんな事言っても、わたしはもう帰れないし、帰らせないでしょ」

 茶目っ気に口を尖らせていえば笑い声が帰ってくる。子ども扱いされているようで少し悔しいけれど、棘がの少し取れた笑みだったから嬉しかった。

「わたしは貴方のためにここにいるの。ここにいることを喜んでくれる、貴方だけのために」

 暗がりに戻る空に目を通し、ギアンの据わる玉座の片隅に腰を下ろした。浮かぶ城は、それでも天の果てへは辿り着かない。





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[2012/08/25 - 再録]