「さあ、門を開こう。二人の願いを叶えるために」

 フェアは両手を伸ばしてそういった。すでに必要な人物は揃っている。心配はない、力をあわせれば絶対にいける。みんなの願いを叶えられる。
 エニシアとコーラルが頷いて見せ、玉座の更に先、空が見渡せる空間で、コーラルがストラに似た掛け声を発する。竜に成るための精神集中だった。

「このあと、エニシアが舵を取るのよね」
「ああ、そうだ。やっと界を超えるときが来たんだ」

 感慨深くギアンは頷いた。すでにその眼は先の世界を見据え、憎む相手を探しているよう。そんなことしても、無意味なのにとフェアは呟きそうになり慌てて口元を押さえる。

「…やっぱり、させませんっ」

 半魔の娘が闇を放ちながら悪魔の羽を生やす。紫に変色した腕を突き出しながら、コーラルの背に畳み掛けようとする。反射的にフェアはコーラルと背中合わせの形になり、迫るポムニットという名を持つ娘の腕を、タイミングよく掴み勢いを利用して投げ飛ばす。近くで待機していた将軍の隊がようやく反応し戦闘体制の構えをみせた。

「あなたらしくありませんっ!」
「そうでス、かんガエナおしてくだサイ」

 ポムニットの後ろを切り付けにかかった兵士の剣を、獣王に姿を変えたカサスが弾き飛ばし、フェアに向けて言葉を投げた。

「邪魔するなら、容赦はしないよ」

 剣の柄を撫でながらフェアは声を響かせた。たとえ誰であっても邪魔はさせないつもりだった。じっとポムニットの眼を見つめ、それでも目色が変わらないことにフェアは嘆息する。

「結界が破られましたわ。何者かが侵入した模様」

 剣を抜いた瞬間、機械人形の一人が声を張り上げた。瞬間フェアの脳裏に人相がよぎる。
 誰に、と聞くまでもない。そんなやつ、この世に一人だけで充分だった。他にいたらいたで叩き潰すだけなのだが。隙を見せたポムニットの腹を一気に蹴り上げ、地に伏す前にフェアは「こっちは任せる」と残して走り出した。





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[2012/08/25 - 再録]