やっぱりいた。
 もう会わないと心の奥で決め付けて、どんなに封印しようとしても顔を出す、はた迷惑な血を分けた親。若干顔がいかつくなったような気もするが、それはやっぱり父だった。
 そういえばこの前夢を見たときにもしょうこりなく出てきやがった。思い出した途端胃がむかむかする。それを怒りや憎悪以外のなんといえばいいのか。
 機械兵士の背から無造作に降り立ち軽い動作でフェアを見やり、父親は小さく鼻を鳴らした。動作の一つ一つが昔の父とまったく変わらなくて無性に苛立つ。何でわたしが大好きだった頃のお父さんと同じ動作をしてしまうの、この悪魔!

「用なんてないでしょ、さっさと帰りなさいよ」

 再会なんてしたくなかった、この感情をぶつけてしまいたくなかった、ずっとどこか遠くで暮らしていればもうなんとも思わないようにすることも出来たはずなのに。いつか恨む事をやめることが出来たかもしれないのに。

「いんや、実は大切な用事があってな、取り返さなきゃいけないもん、ここにあるんだわ」
「そんなものないわよ、帰れってば!」

 軽口に切って捨てた回答を心がけるつもりがつい怒鳴り散らしてしまった。ペ−スに乗せられてはいけないというのに。
 先ほど納めた剣の柄を指の腹で撫でる。出来れば抜きたくないのだから帰って。そう念じてみても父は微笑を浮かべて見せるだけだった。

「本当に厄介な人だな、フェアの父親は」

 背後から発せられた声に反応しフェアは勢いよく振り返る。複雑な模様を描いたマフラーが特徴的な、赤髪でフェアと同類の青年。

「何で、任せたっていったんだけど」
「誰を、とは指名していなかっただろう? 君一人にこんな非人間を任せるわけにも行かないし」

 無遠慮に青年は人差し指で父を示し、まあ、と少し空の色を眺め、

「こうすれば、全部終わらせられるんだがね」

 と囁いた途端に赤い光が視界を埋め尽くした。父はびくりと肩を揺らしてすぐ体が動かなくなり悪態をついて青年を睨んでいた。
 その隙に青年は先ほどフェアがポムニットにやったように腹を蹴り上げる。空気の詰まった声を上げ、父親は後ろへ投げ出され下一面の翠へ落下し始めた。機械兵士は慌てたふうなく冷静に反応し、落ちていくフェアの父親を拾いにいったように見える。

「大丈夫、もう開くから」

 眼を見開きギアンを見上げフェアに空を指し示す。しばらくしてぐにゃんと空が歪み、時空が狂う。紫がかった黒のような不気味な色が空から溢れ出た。

「ほら、中に入って。エニシアの補佐をしてくれるんだろう?」

 フェアは下に広がる緑を一瞥し、小さくお父さん、と呟いてから「もちろん」と返す。もちろん、そのためにここにいるようなものなのだから。





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[2012/08/25 - 再録]