パタン、と扉の閉まる音が聞こえ、ミントは廊下を凝視した。
起きていると言い張って丸一日眼を凝らして疲れたのか、隣で転寝をしていたリシェルは勢いよく飛び起き、先生、と声をあげる。
「先生、終わった?」
「ああ、多分これで大丈夫だ」
セクターと一緒に部屋から現れたグランバルドの機体を軽く叩き、その周囲に仲間たちの一部が集まる。ここにいるのはグランバルドと、フェアと町で共に暮らしてきた馴染みの者だけだった。
「グラン、ガンバッテ、ミンナノヤクニタツ!」
少々不安が残るが、ここはグランバルドに任せるしかなかった。通信機という機界の品を使って特定の電波を探しているらしく、律儀にセンサクチュウと一定時間で繰り返す。
「誰、で…すの」
ノイズに埋もれた中、女の声が聞こえた。機械人形姉妹の長女の声だった。
「ちょと、そっちはどうなってんのよ!」
リシェルが声を張り上げる。敵も味方も関係ない、この事態は想定外だと敵は思っているはず。
「もう、旅…始まってし、まいましたわ。侵入者、が入…込んでき……ですけ、れど、落とされ…っ」
ミントたちは一斉に顔を見合わせる。侵入出来る者が仲間の中でいたのだろうか。
「あ、と…――」
ぷつり、と声が途切れた。電波が妨害されたようで、リシェルはうなだれる。
「普通に暮らすなんて、無理だよ」
まっとうに生きる事を望んだ少女が出来なかったのなら、私たちにできるわけないじゃんか!
ルシアンが姉を宥めている姿を見て、ミントは頼もしい友を見る。むいと手を上げる親方に頷きを返し、ゆらりと光る緑の石を取り出した。
[2012/08/25 - 再録]